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怒り 上・下
 世間が忘れ去ろうとしている未解決事件。殺人現場に残された「怒」の血文字。
 警察は、世間が忘れ去らないためにメディアに訴え、手がかりを求める。

 その中で揺れ動く人と人の関わり。

 大手企業に勤めるゲイの優馬。彼の家に転がり込んでいる直人がその犯人なのか。
 知的ボーダーと言われ、家出して風俗に勤めていた娘を持つ中小企業の社長の家の従業員田代。真面目なだけが取り柄で、娘のすべてを知っていながら一緒に暮らすと言ったこの男が犯人なのか。
 ふしだらな母が、男関係でしくじる度に、夜逃げのような転居を繰り返す母娘が流れ着いた沖縄。そこで知り合ったバックパッカーの田中と名乗る男。彼が、犯人なのか。

 人が人を信じるのは、人が人を好きになるのは、いったい、どんな感情が動くのか。
 そして人が人を疑い、人を正義の名の下で裏切るのは、いったい、どんな感情が動くのか。
 訳アリだとわかっていたはずの相手。殺人犯に似ているというシグナルを受け取ってしまった時、人は何を疑い、どう行動すべきなのか。

 人を疑う時、人は自分の弱さを突きつけられる。ゲイであることを公表しながら、家族や幼馴染には知られたくないと思う弱さ。自分と娘の期待できそうにない未来。大好きなあの子を助けられなかったふがいなさ。

 するりとそこの入り込むように、闇は訪れる。
 向かい合っていたはずの人間が知らない何かに見える。

 狂気が、殺人鬼によって「怒り」と名付けられ、大衆によって「怒り」と認識された時、その得体のしれないエネルギーは、薄っぺらい事件や世相になる。
 その中で、確かに生きた、そして試された人々の気持ちをよそに・・・。

 そんな物語である。



         

               書籍データ 吉田修一 中公文庫 201601
| 18:16 | 一般書 | comments(0) | trackbacks(0) |
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