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いちえふ 福島第一原子力発電所労働記 1
 大学卒業後、職を転々とし、売れない漫画家としても活動していた筆者は、東日本大震災後、福島第一原子力発電所の作業員となる。
 彼が、その目で見てきたルポルタージュ作品。労働記である。

 話題の漫画ということで手に取ってみた。

 震災と原子力発電所について、正確にとらえる為には、大雑把に言って、3つの視点が必要ではなかろうか。
 一つは、歴史や政治、企業といった大きな枠組みと流れの中で、縦に横に広げながら、報道の強さに誤魔化されず論じていく視点。もう一つは、被害にあわれた方々の気持ちに寄り添った視点。そして、もう少し客観的に、自分が今何が出来るかを含めた、目の前にある問題としての視点だ。
 この漫画は、三番目の視点に特化した物語である。
 作者は、何か役に立つことを仕事としたいという正義を持ちながらも、好奇心と募集要項に書かれた高い給料に魅かれていたことを否定しない立場である。 
 
 究極の意味での、加害者でも被害者でもないそんな作者が、日常として原子力発電所と向き合うのだ。

 「いちえふ」とは福島第一原子力発電所の通称。「Fえふ」は福島。「1いち」は第一。現場の作業員や地元住人は「フクイチ」ではなく「いちえふ」と呼ぶ。
 
 地元民も含め、わけありの男たち。怪しい斡旋業者。そして、いつはじまるかわからない仕事と、格安であっても、日々かさんでいく寮費と食費。
 そんな思いをして、やっと辿り着いた「ふくいち」の作業員。

 「フクシマの真実」という名目で報道される、都市伝説のような人災物語。暴くという名の嘘は、原発という場所を、日常から遠くする。
 
 これは「フクシマの真実」を暴く漫画ではない。これが、彼がその目で見てきた「福島の現実」。

 帯に書かれている言葉そのままに、男が数人集まれば繰り広げられる猥雑な話もあれば、衣食住の問題もある。
 今もそこにいる動物と、震災の爪あと。
 放射能の恐怖と、厳重な装備、徹底的な管理。
 
 一日に可能な被爆量はきっちりと管理されている。一時間も働けば、その日の予定量になってしまうことも少なくない。
 漫画の中で、労働者たちは言う。

線量の高いとこは勿論だけど 低いとこだって この重装備じゃ 長い時間働けないからなぁ・・・
なのに外の人は やたらと言うんスよね「収束してません!」って
こんな一筋縄でいかねぇ現場が そんな簡単に片付ぐわけねぇべ

 勿論、この事実だけ知れば、原発を知ったことになるわけではない。
 しかし、我々は、そんな一筋縄でいかないものを世に放ってしまったこの日本に足を下ろし、日々を過ごしている。原発が安全だと思わせたい人間の利権と同じように、福島は収束しない方が都合が良い人間もいるかもしれないと想像力を働かさなければならない。

 あらゆる角度から物事を見て考えることからしか、真実は見えてこないし、するべきこともわからない。

 一つの視点の補助として、読まれるべき一冊である。
 
 


いちえふ 福島第一原子力発電所労働記 1
       書籍データ 竜田一人 講談社 201404
| 22:50 | 漫画 | comments(0) | trackbacks(0) |
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