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そして父になる
 第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、審査員を受賞した話題作。
 主演の福山雅治が映画祭で振りまいた笑顔が印象に残っている。
 その笑顔の残像を追うべく見に行った作品。

 小学校のお受験に成功した息子。
 大手建設会社に勤務し、ホテルのようだといわれる都心の高級マンションで暮らす家族。
 職場では優秀だと前途を有望視され、家族と過ごす時間は少ないが、福山雅治演じる野々宮良多は、知性の勝った人間として、誰からも責められることのない、誠実で豊かな毎日を送っていた。

 しかし、その息子が出生時に病院で取り違えられた別の子どもだったことを知らされ、生活の根底が覆ることになる。

 取り違えられたもう一組の家族、斎木夫婦と対面し交流を始める。病身側への要求一つとっても、真意を知りたいという野々宮と、誠意は金であらわすべきだという斎木。二組の家族は、あまりに違う環境と価値観を持ちながら、病院を相手取って裁判を起こし、息子の今後について結論を出さなければならないという共通の時間を過ごすことを余儀なくされる。

 誰もがうらやむエリート夫婦。そこには、誰もが想像できるように、忙しさに隠された不満が隠蔽されている。
 つぶれかけの電気屋の夫婦。品も教養もない逞しさの陰に、誰もが想像できるように子どもとのふれあいと時間という、人間の豊かさがある。
 誰もが想像できる、使い古された対極にある二つの家族。

 役者陣の演技は、誰をとっても素晴らしかった。野々宮夫妻に福山雅治と尾野真千子、斎木夫妻にリリー・フランキーち真木よう子。福山の父に夏八木勲、尾野の母に樹木希林。
 苦悩と葛藤の世界を、それぞれの立場で見事に演じている。

 誰に感情移入するかで、物語の評価は変わるのかもしれない。
 私は、福山雅治演じる野々宮良多にしか添えなかった。
 そして、彼が誠実に「父になる」ことに取り組む姿。否、「父になる」ことに追い込まれていく姿に、終始、苛々とその顛末を見守ることになってしまった。

 「僕にしかできない仕事があるんです」という野々宮に、斎木は「父親かて取り替えのきかない仕事やろ」と言う。今後の子どもたちが、環境を越えて、血にひかれ、お互いに似てくるかもしれないと案じる野々宮に、斎木の妻は「似てるとか似てないとか、そんなことにこだわっているのは、子どもとつながっているって実感のない男だけよ!」という。

 わざと取り違えたと告白した看護師に、慰謝料を返しに行く野々宮は、自分の幼い頃を思い出し、父の妻、なさぬ仲の母親に電話をかけるシーンがある。
 あの時は、と切り出す野々宮に、風吹ジュン演じる継母は、あなたとはもっとくだらない話がしたいと言葉を遮る。誰がカツラだとか整形だとか・・・その可笑しさに悲しみが滲むシーンではあるのだが・・・。

 彼は、過去を贖罪することも許されない。

 自分の価値観ではなかった人間像の象徴のような人々から、否定され、正義は自分にあるといわんばかりに、あるべき方向を示され、それに同調した妻から、「父」という役割に追い込まれ。
 無垢ではあるが、人を傷つけてなお、人間らしくある子どもたちに、自分の無力を突きつけられ、自分を出来損ないの父親だと自覚させられ、公言せざるを得なくなる。

 相手の子どもの前で、他方の家庭に行った、育てた子どもの電話を取る母の無神経さは、母として許され、父は、自分らしく生きることを否定され、父という役割に追い込まれていく。
 それが「父になる」ということなのであれば、父とは、一体何なのだろうと、考えざるをえない。

 リアルなのだと思う。
 役者も良い。人物像には誰も破綻がない。
 文句がつけようのない一方で、私は、イラつく自分を抑えられない。

 実話ではないのだから、物語が意図したものは、一体何なのだろうか?

 毎日、あれだけ親に手をかけてもらいながら練習し、発表会で失敗だらけのメリーさんの羊しか弾けない(弾かしてもらえない?)というシーンに託されたものは?
 エンドロールは、グレン・グールドの演奏する1981年の名盤「バッハ:ゴールドベルク変奏曲」からアリアが使用されている。確かに、ハミングまじりのグールドの演奏は、物語を思わせぶりに思慮深い世界に温もりを残しながら誘うが、演奏会を拒否し、録音ピアニストとして自己の世界に立て篭もった、天才ピアニストの演奏に何を思えばいいのか。

 理屈としても、象徴としても、感性としても、私には何も見えてこなかった。 




                       そして父になるの場面カット画像
                                  是枝裕和 監督  2013 日本映画
| 23:59 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0) |
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