ぜひぜひ読んでほしい本のショートreviewをUPします!
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ぜつぼうの濁点
  昔むかしあるところに
 言葉の世界がありまして
 その真ん中におだやかな
 ひらがなの国がありました。

 「あ」から「ん」までの
 五十音らがくっつき合って
 意味をなしつつ
 読んで字のごとく
 暮らす国です。

 ある時、何てことのない道ばたに「゛」と、濁点のみが置き去りにされているのが、発見される。主不在の、読めもしない不手際はここ千年に一度もなかったことだった。
 濁点は、訴える。自分の主は、「ぜつぼう」だったと。忠実に職務をはたしてきたものの、年がら年中もうだめだ、もうだめなのだと頭を抱える主のことを、気の毒に思い、自分がいなくなったら、主は「せつぼう」として生まれ変わることが出来ることを悟ったのだと。
 どなたか、私をもらってほしいと、いろいろな文字に頼み込むが、聞き入れられない。
 そして、とうとう「おせわ」に、にごった水にとけてなくなってしまえと、沼の中に投げ込まれる。
 絶望と、孤独の中で、薄れ行く意識。これでよかったのだという、濁点のつぶやきは、水の中で小さな気泡となる。
 「きほう」・・・・。
 そう、濁点は、気泡にくっつき、「きぼう」・・・希望という文字になって浮き上がり、世の中を満たすのだ。

 洒落た言葉遊びの絵本とも言える。
 しかし、ほんの小さな濁点のせいで、心持ちが大きく変わるというテーマは、なんだか身につまされるものがある。自ら選んだこととはいえ、長年仕えた主に見捨てられた濁点が、世間の冷たさと、意味を成さない自分を思い知らされ、「おせわ」さえ、自分を積極的に殺そうとする環境の中で、新しい拠所を見つける。懸命に生きた濁点の物語とでも言うべきか。
 それにしても、濁点を見捨てた、「せつぼう」・・・切望は、きっと今も、満たされない思いをかかえて悶絶していることだろう。ざまぁみろと思うのは私だけではあるまい。抱え込んだ絶望に付き合う方が、あるべきものを見捨てて掴む未来へのあてどのない望みよりも、ずっと尊いと思うのである。

                                    ぜつぼうの濁点
         書籍データ 教育画劇 原田宗典・作 柚木沙弥郎・絵 200607
                    
| 06:32 | 絵本 | comments(0) | trackbacks(0) |
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